図 i-1 の(a)は理想化した3原色生物の錐体の応答特性だ.そして(b)は理想化した 4原色生物の錐体の応答特性とした.今までの説明は(a)(b)の特性を仮定してきたが, (a)と(b)はカバーする波長域をほぼ同じにした. なにせ私たち人間が見て感じることのできる色で表現しないと いけないので,可視光領域からはみ出すことが許されないためだ. そのため(b)の各錐体の帯域域は,(a)の場合より狭くなっている.
しかしウグイの場合を想定して考えるならば,L, M, S錐体の特性はそのまま 変えずに,新たにUV感受性のU錐体を追加した場合に相当する(c).この場合は 今までの紫外線領域まで可視光領域が広がる形になる.
ウグイの光の見え方を考えたいのならば 単波長光の色表現はこの図のようになるだろう.上の段が今までの色表現 図 i-1 の(b)の場合),そして下の段が理想化したウグイ用色表現 (図 i-1 の(c)の場合) になる.この場合,一番短波長側は人に見えないので黒く表わした.
では今まで紹介してきた4次元の色球は,ウグイ用に書き換えるとどうなるのか. まず従来の色表記で示した14面体を図に示す.
図 i-3 では北極に橙緑,南極に紫を配した. ウグイ用に書き換えるなら,紫を紫外線と読み替えなくてはいけない. 実はこの14面体は赤道で北半球と南半球に2分することができる. 北半球の色は紫成分を含んでいないすなわち紫外線成分が混じっていない. 一方南半球の色はすべて紫成分を含んでいる(紫外線成分が混じっている). このことは,各色を2進数表記するとわかりやすい.
紫外線に感受性を持たない3原色生物にとっては,光に紫外線が混じっていよう が混じっていまいが同じ色に見えるはずだ.したがって ウグイ用に14面体の色を描き直すとこうなる. 図 i-4 の上段が従来の色表現,下段がウグイ用色表現だ.また図の左側が UVのない半球,右側がUVのある半球になる.
どちらの半球も,無彩色を中心に,いわゆる「色環」がぐるりと囲んでいる ことがわかるだろう.単波長光を赤から青まで波長を変えると,3原色生物 には色環をぐるり一周したように感じる.この一周を「紫外線なし」の状態で やろうと「紫外線あり」の状態でやろうと色の見え方は変わらない.しかし ウグイには別の色として見えているはずだ(それを図にすることはできない!)
これを図にするとこんな感じだ.
3原色生物にとっての色環の一周を,紫外線の背景光の下でやってみよう. 3原色生物にとっては(紫外線を感じないので)どの紫外線強度でも同じ色にしか 見えない.しかしウグイにとってはそれぞれ別の色に見える.そのため紫外線強度 が変わると「UV色を帯びた色環を一周」とか「UV色を帯びない色環の一周」とか いう具合に別れてくる.これらを全部ひとまとめにすると例の「色球」になると いうわけだ.
魚釣りに関心のある人ならば,「じゃあより良い疑似餌を作るにはどうしたらい いか」という質問が出ることと思う.もし興味が「より良い疑似餌」という一点 のみならば,「見た目の色だけでなく,紫外線の反射率についても本物(真似よ うとする昆虫?)の反射率に合わせるといいでしょう」ということになる(もし 魚が色の違いをそこまで気にするのであれば,の話だが).
しかし,もし釣り師が魚を愛するあまりに魚の目から見た水中の色彩の世界を自 分も愛でたいと思い,それを恋切なく感じるのであれば------その時は例の14 面体を取り出して,想像たくましくするしかない.もっともウグイの方にそれだ けの美意識が伴っているかどうかは,大いに疑問として残るが.
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