4次元の色彩: 4原色生物の色覚を考えてみよう


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目次


補足と注意

補足と注意 (1)

このテキストでは,視細胞の特性などをかなり思い切って単純化した.そのため 美しい幾何学的構造が現われた.この単純化は色覚の本質を失うものではなく, むしろ非本質的な現象を切り捨てて本質を際だたせるものだ.しかし,現実の 視覚系が持つ特性を考える時は,本テキストで切り捨てたことについても知って おく必要がある.特にヒトの視細胞の特性は(進化的な理由で)クセがあるので その影響は無視できない.

本テキストで理想化した視覚特性と現実の視覚系との違いのうち,代表的な 点を挙げておく.

色覚異常(いわゆる色盲や色弱)を持つ人の感じ方は,本テキストで述べた2原 色生物の場合と一致するわけではない.その理由として,上に挙げたいくつかの 点を切り捨てて単純化したこと(特にL, M錐体の類似性は大きく効く)と,色覚 異常とは言っても特定の錐体の色素がまったくなくなるとは限らないからだ.す なわち3原色色空間である正三角形LMSは完全につぶれて1次元になるのではな く,つぶされて変形は受けていても三角形の形は残っている. 変形の程度は人によってさまざまで,ほとんど一次元になってしまうような重度 の場合もあれば,あまり変形を受けず三角形をよく残っている場合もある. いずれにせよ,2原色生物の話がそのまま成り立つと考えるのは早計だ. Web上で多くの方の手記を見つけることができるだろうから, まずはそれを参考にしてほしい. また本テキストで述べた「方法論」の方は依然として有効であり, より深い理解を得る上では大いに役立つと思う.

補足と注意 (2)

本テキストでは,4原色を持つ動物の色覚について扱ってきた. そしてウグイが4原色動物ではないかという話もした. こう書くと,本テキストはウグイの色覚について書かれたものではないかと 誤解されるかもしれないので,それについて一言書いておく.

ここで書いた4原色生物はあくまでも架空のもので,視細胞の特性も含めてすべ て理想化(あるいは単純化している).その意味では「架空の4原色生物の色覚」 について書いたものと思ってほしい(実は1〜3次元も架空の生物なのだが).

4原色生物である必要条件は,4種の錐体を持ち,3つの反対色チャネルを持つ ことだ.その意味でウグイは4原色生物の資格を持つ.しかし本当に4 原色生物のメンバーかどうかは,それこそ中枢を調べるか行動実験(いわば心理 実験)をするかしなければわからないだろう(魚の行動実験は可能で,実際,キ ンギョの色覚は行動実験で調べられている).

最後に図について. 本テキストで用いた図は,すべてUNIX上のidrawで描いたものだ. このソフトで使える色数は非常に少なく,そのため色を表現する上で かなり苦労した.図で示した色はあくまでもめやすでしかない.


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佐藤 大'
satodai@dog.intcul.tohoku.ac.jp