「ペギオ亀」という単語に心当たりがない場合は、この実験系の原型となったいくつかの論文に付いて、予習しておくべきです。予習にあたっては東北大学理学部の黒木 玄氏によりまとめられたペギオ亀ファイルというページが便利です。


ヒトの学習に関する能動的選択

佐藤 大'(東北大・医)

2000/04/11

 通常、動物における学習実験の概念は観察者の提示した問題に対して十分な時間の後、問題の解を獲得するという形式で述べられる。これに対し我々は実験結果を評価する観察者も取込んだ形式で動物の学習概念を再構成した。

 ヒト(Homo sapiens sapiens)を用いて二者択一の選択実験を行った。広場にフェンスを囲い、その対角線上に開閉自由な出入り口を2つ作り次のような規則にしたがって出入り口を開閉し、ヒトを歩かせた。

実験1:2つの出入り口どちらか一方に地雷を埋め、他方は脱出口にする。
実験2a:ヒトが歩いた方を常に正解(地雷)とする。
実験2b:ヒトが歩いた方を常に失敗(脱出口)とする。
実験3:中央に留まったときにのみ脱出とする。

 この一連の実験を実験 1〜3 まで行う。この時、実験 2 は観察者が実験結果の正否を判断できないような実験自体の構成の不備な実験である。つまりヒトが歩いた方を意図的に正解にしたり失敗にしているからである。実験1,3 は通常の学習実験であり、観察者は実験の正否を判断できる。

 しかし実験結果は、観察者が評価できない実験 2 におけるヒトの行動が、機械的に判断できる実験 3 の結果 (成功、失敗) に大きく影響した。このことはヒトにおいて、我々の評価できない実験の中でヒトが獲得した行動を、我々が評価しうる実験を解く鍵として使ったことを示唆する。このことをもって動物の能動性を再定義した。つまり、動物内部において環境刺激がいかなるものか決定できないことが、動物の能動性を理解する鍵である。

 なお最後に、実験2において正解したヒトは両後肢を失った事を付記しておく。


 以上の実験を発展させ、さらに次のような実験を行う。

  1. フェンスで囲んだ広場に多数の地雷を埋設した。
  2. それぞれの地雷の火薬量は、前述の実験の10倍とした。
  3. 実験2a の発展として、双方の出入り口を常に閉鎖とした。
  4. 観察者のわたくし性をさらに強く参入させるため、観察者=被観察者とした。
  5. 実験開始直前に地面に立てたバットに頭を付けて10回転し、不定性の介入を強化した。

この実験は地雷を埋設した観察者が実験結果の正否を判断できないような実験自体の構成の不備な実験である。つまり被観察者が地雷の埋設箇所を記憶しているからである。

 この実験の結果、埋設箇所を知るヒトは独特の歩行パターンを示すであろう。この歩行パターンにおける不定性は、地雷埋設の中でヒトが獲得した座標を、ヒトが評価しえないであろうこの実験を解く鍵として利用できない事を示唆するはずである。このことをもってヒトの能動性を再定義したい。つまり「ヒト内部において環境刺激がいかなるものか決定する暇がないことが、ヒトの能動性を理解する鍵である」ことが示されるはずである。

 では、実験を開始する。


参考文献

野村 収作、郡司 幸夫 生物物理 38 supplement 2 (1998)、日本生物物理学会第36回年会講演予稿集 p.S190


I' Sato
The study of autonomous choise in learning process of Homo sapiens sapiens.
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